昨年の真夏のある日、アクアライン経由で品川駅に到着するバスを降りたとき、素敵なサックスの音に包まれる。とても不思議な感覚で、引き込まれるように音のもとに足が向かった。この日は袖ヶ浦地域の土の匂いのする現場で自分も一日汗をかきながら、ユンボとかに乗って作業をしてくれる人たちを見ていて(はい、これがこの日の仕事でした)、その後木更津に抜けて食事をしたあと、バスで帰路についた。昼間の現場では、仲のいい若い兄弟が働いていて、またその働きぶりがすがすがしくて、社会を下で支えてくれているこういう人たちの幸せを思わず願っていた。本当に幸せになって欲しいと・・・。
そんな心情も手伝ってか、そのサックスフォンの響きに触れたときには、とてもその音色が心に沁みたのでした。聞き入っていると、チラシが配られ、以前ホンダに勤めていたエンジニアで、両親が共に音楽家であると知る。脱サラしてサックス奏者に、というのはなんとも転身であるが、その方法もまたユニークである。つまり、ストリートで演奏することを「本業」としており、コンサートはいわば「副業」である。もと会社員であると知り、同じく会社員の私にはとてもまた親近感を感じたのでした。そして、その心に沁みてくる響きのもとにあるものは、会社員人生を経験し、その楽しさ・苦しさも知りながら、その生活に飽き足らずに、大人になって始めたサックスで、プロの道を目指したという彼の人生体験そのものと、彼の音楽を求める心の響きではないか、と感じたのである。自分の音楽を路上で聴いてもらいたいと思い、ストリートミュージシャンとしてのスタイルを確立したこととも関係ありそうだ。
サックスの音が心底心に沁みたのは、ミュージシャンその人の魂が「会社員」という人生を昇華させ、残りの人生を音楽で切り開こうとしている、その姿が音に表現されていて、感動したのだろうか。そもそも、人が感動するとはどういうことなのか。同じ音楽でも、すべてに感動するわけでもない。音楽とは響きであり、魂そのもので、ミュージシャンがその人生を昇華した度合いが音楽に表現されるときに、他の人の胸を打つものなのだろうか、などなどいろいろと考えていた。
さて、その後得た情報では、あの現場で働いてくれたYさん兄弟は、秋に独立して有限会社を立ち上げたという。彼らは、いちいち指図せずとも次にやらねばならないことをわかっており、仕事の効率もすばらしかった。あのときに、底辺に居る人たち、と思った自分に思いあがりはなかったか。または純粋に幸せを願っていたのかもしれない。ともあれ、幸せになってよかったと、心から嬉しく思う。
そう、そのサックス奏者は中村健佐さんといいます。
http://www.kensukesax.com/
もうすでに成功物語を地で行く知名度を持ち合わせつつあるようで、もはやロングテール効果からは程遠いのかもしれませんが、でも、メジャーではないんで、ロングテールでしょうか。一度サイトを訪れてみてください、品川駅に降り立ったつもりで、流れてくる音に触れてみてください。
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